感想『艶黒パラノイア』(あなたを、廃人です。) 


 fetishism/フェティシズム:
 (中略)拝物愛≪異性の身体の一部(毛髪など)や衣類などを性愛の対象とする心理≫(ジーニアス英和辞典より)

 「心理というよりも真理だよなあ」などと、本を閉じながら思った。
 衣類に対する情愛あり、という命題を真であると証明するには、事実として衣類に対する情愛があればよい。この話はまさにその命題の証明であり、読者に強烈な印象を残すと同時に、新たなるフェティシズムにおける同志を開拓するパイオニアでもある、攻守揃った本であると感じた。

 魔理沙との弾幕ごっこで愛用の黒タイツを破ってしまったこいしは、替えのタイツを探す道中で仲間を得たり敵と遭遇したり様々な人物や出来事を経験していくという(個人的には)心温まる(と思う)ストーリーである。作中では様々な種類のタイツやそれに類する衣類が登場し、それに伴って作者の嗜好や熱意が描かれている。直接的にエロを求めたような表現はなく、販売も一般向けである。しかしながら登場人物の発言と行動の各所にどきりと心を掴まれる表現がちりばめられている。作者が「一般向けか成人向けかで言ったら玄人向け」(twitterより)というのも、強く首肯できるものである。タイトルこそパラノイア(偏執病)であるが、そのようにおどろおどろしくない、爽やかに読み終えられるように思う。

 何故に人の熱い意志はこうも人の心を打つのだろうか。何故に人の強く前向きな感情の表れを見るのがこうも嬉しいのだろうか。それらが発揮されている本、話、シーン、シチュエイションを見ることは本当に楽しく、嬉しい。同人誌を読むという事は、それらの感情により沢山出会える場に身を置けることだ、ということを、強く強く実感させてくれた本であった。


 あとこの本のおかげでタイツ好きになった。


2010.12.29 途稀

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